2011年12月28日水曜日

一人旅記録 7 ゴヤ

つづき。


ゴヤは天才だが、
耳が聞こえなくなってきてから段々と画風が変わってきた。

悪魔が出てきたり、
戦争だらけとなったり。


体調不良の僕は少し頭がついていかなくなり、
 そこでとった行動というのが・・・









人間観察。













それまでまったく興味のなかったことなのだが、
一転して周りの人間を見てみた。


カップルで見に来ている人たち。
 手をつなぎながら一緒に歩いている。


 ・・・ちっ


家族連れで来ている人たち。
 意外にも歩けないような幼児をつれている家族が多かった。
 英才教育なのだろうか


美術大生と思われる方たち。
 これはあれだ、あいつの作品はこれを意識しているだ、
 と「美術品」として語り合っている。


記者と思われる方。
 一眼レフを首からさげ、バインダーに一生懸命メモをとっている。



また、
僕の苦手な音声案内を利用している人も多かった。
おそらく6割の方は利用していたんじゃないかと思う。

大好きな画家で、
何度も見ている絵で、
もっと深いところを知りたいというんであれば別だが、
僕は無知なので、
自分の感性でまずはみたいと思っている。


逆に、
得意気に説明をしている方もいた。

美術の先生かなんかだろうか。







そんな中、
僕の一番興味をひかれたところ。


たくさんの肖像画がおかれた大きな部屋に彼らはいた。


一人はとんでもなく美青年。
 女性的な顔をしていてやさしそうな、それでいて深く考えていそうな顔立ち。

隣に立つのは初老の女性。
 身なりは小奇麗というか、セレブという言葉の似合う印象。


その女性が一生懸命青年にまくし立てていたのだ。



絵の説明をしてくれているのだろうか。

上野公園でぼくがおじいさんにつかまったように、
 たくさん語られているのだろうか。

それとも???



よく見ると、青年の首には一眼カメラ。
大きなリュックを背負っている。

女性はいかにも歩きそうな靴を履き、
(服装とは合わないようなスニーカーのような靴)
険しい顔をしている。



30分は他の絵を見ただろうか。(僕が)

ふと思い出してその部屋を振り返ってみると、

まだ同じ場所で女性が一方的に話していた。
(青年はうなずいていた)


何の話をしているんだろう?



興味のわいた僕は道順を無視し、逆走した。

その二人のいる肖像画スペースへ。




話しかけようかとも思ったのだがチキンな僕は当然絵を見ている振りをして近くに立った。

聞き耳を立てるためだ。



話を聞いていると・・・


二人はどこかの雑誌の編集らしい。

女性が青年を8年間目をかけてみてくれているらしい。

青年は今の環境が嫌で小説に専念しようとしているらしい。
(やめたいとでも話したんではないか)

女性は今日ゴヤ展に青年を連れてきたらしい。




なんとなく複雑なようなシンプルなような。

青年は一生懸命目を見てうなずいている。

でも、真剣なようには見えない。

どこか冷めているような。




女性の一言がとても印象に残っている。

「小説を書きたいというけれど、
 じゃあなぜすべてのことを貪欲に吸収しようとしない。
 この絵を見て『素材』としてのアイディアを湧き上がらせない。
 
 お前は能力はあるから目をかけてきたけど
 どうしてもう一歩のところで踏み込んでこない?」








今まで僕は、
自分の人生を走り続けることで精一杯だった。

もちろん、それは大切なことだった。


でも、
今のようにたくさんの人をたくさんの角度で見てはきたが、

純粋な気持ちでまっすぐに見てきていたのか。



非常にいい旅になったと、これだけでも実感した。

まだ終わらない女性の話を背に、次のステージへと進んだ。



つづく

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